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【ネタバレあり】小栗虫太郎「法水麟太郎全短編」を紹介・前編

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日本三大奇書のひとつ「黒死館殺人事件」で有名な小栗虫太郎先生。たまたま図書館で他の短編集を読む機会があり、今回河出文庫で短編がまとめられて出版されたので購入し、読みました。
しかしなんといっても蘊蓄語りがメイン(?)の先生らしく、短編を読むだけでもものすごい時間がかかりました。個人的にまとめがてら、感想をまとめていきたいとおもいます。

ゆきんこ

数が多いので今回は最初の4作品です

ありさん

タイトルがなんか中二っぽくない?

ゆきんこ

それも魅力の一つ!かっこいい!

小栗虫太郎先生の作品の多くは青空文庫で読めます!

目次

後光殺人事件

発表されたのは昭和8年7月で初期に位置します。小栗先生の初期ミステリーは怪奇密室作品が多いと後書きで解説の日下先生が話していますが、たしかに密室作品が多い印象でした。というか難解な言葉が多すぎて脳内でトリックや事件状況の想像が難しかったです。こちらは心理トリックを利用した密室殺人です。

小栗先生のミステリー小説のなかでいちばん有名なのは日本三大奇書の「黒死館殺人事件」で、その解説のなかにある「事件の犯人と動機はさらっと語られる程度で本題は散りばめられる蘊蓄にある」ということですが、最初の事件からしてまさにそれです。残り1ページでさらっと語られる犯人とその動機と顛末。

登場人物作中での立ち位置
法水麟太郎主人公で探偵。蘊蓄語り大好き。
熊城捜査局長&支倉検事ワトソン枠
鴻巣胎龍事件の被害者。変死を遂げる
柳江胎龍の妻。最後の目撃者
波貝久八寺の下男。裕福な質屋の主人
厨川朔郎洋画学生。殺人現場にあった鏨の持ち主
喬村旧友で柳江と密会、不倫関係にある
※「後光殺人事件」の犯人のネタバレ

犯人は厨川朔郎。喬村を巻き込んだのは特に意味はなく、柳江との密会を知っていたため利用できると踏んだから。フロイトの精神分析を利用して胎龍の精神を追い込んで心を退化させて動けなくした後、頭蓋骨の隙間から凶器で突き刺して殺したため、胎龍は恍惚とした気分で死を迎えたとのこと。

※「後光殺人事件」の犯行の動機

父親の復讐。朔郎の父と胎龍は同門で官展に出品したが、胎龍が汚い手をつかって朔郎の父を落選させて自分が当選。それを気に病んだ朔郎の父は発狂し一生をサナトリウムで暮らして死んだ。朔郎は逮捕されず、その場で高圧電流を浴びて自殺を選んだ。

聖アレキセイ寺院の惨劇

戦前の話なのでロシア人たちがどういう目で見られていたのか察することができますね。こちらは物理トリックを利用した密室殺人。そんなに風に動くかぁぁぁぁとなるんだけど小栗先生の雰囲気作りに圧倒されて「そうかな、そうかも」と感じてしまう。そして神秘学というか各宗派の死生観といいますか。
しかし前回にもまして専門用語が多いので読みにくい……あと法水先生がドヤ顔でトリックを解説しているので、わからないままにそのまま飲み込まれてしまった感がありますね。ちなみにこの事件の10日後に起きた事件が「黒死館殺人事件」です。

登場人物作中での立ち位置
法水麟太郎主人公で探偵。蘊蓄語り大好き。
熊城捜査局長&支倉検事ワトソン枠
ラザレフ本名「フリスチァン・イサゴヴィッチ・ラザレフ」事件の被害者でロシア人。寺院の堂守でかつては「キエフの聖者」と呼ばれていた。
マシコフ(ルキーン)本名「ヤロフ・アヴラモヴィッチ・ルキ―ン」ロシア人で寄席の大道芸人。
ジナイーダラザレフの養女(姉)でマシコフの婚約者。修道女。
イリヤラザレフの養女(妹)でルキーンの事が好き。
ワシレンコ本名「デミアン・ワシレンコ」。ジナイーダの事が好きで彼女が結婚すると聞いて惨劇当日寺院を彷徨いていた
※「聖アレキセイ寺院の惨劇」の犯人のネタバレ

犯人はジナイーダ。彼女が修道院にはいり強く信仰したキリスト教カルメル派は実在する。作中で法水が「童貞女」という言葉を使用するが、それが処女と考えれば自ずと見えてくる。

法水が犯人を警察に公表しなかったため、この事件は迷宮入りになりそうだと黒死館殺人事件の冒頭で言及あり。(姉妹は法水の協力で寝台列車でサナトリウムに行く)

※「聖アレキセイ寺院の惨劇」の犯行の動機

神を信じる修道女ジナイーダにとって自分を処女でなくさせそうとする(=教えに反する)養父が許せなかった。教えを狂信的に信じるジナイーダにとって自分が結婚して処女でなくなることは教えに反する行為。彼女の価値観では尊属殺しよりも教えを守る方が重要だった。

元々ラザレフは聖者と呼ばれた男で両親を亡くした姉妹を引き取って育てるほどのできた人物だった。彼を変えてしまったのはロシア本国の革命で、ケチで貪欲な人間に生ってしまう。ラザレフはルキーンの貯金に目をつけ、娘のジナイーダにルキーンと結婚しろと言われたがジナイーダに結婚する気はなく何度も父親とやり合っていた。

夢殿殺人事件

舞台は尼寺で2つの宗派に分かれている。被害者がありえない状態で殺害されているのが特徴。密室殺人。
いくらなんでも人間はそんな動きしないのでは?????とツッコミと入れたくなりますが、読んでいるときはそこまで気にならない恐ろしさ。

ひたすら別のなにかに置き換え状況説明(ときには関係ない話もする)をする法水に対して真っ向から挑んで法水をやり込める盤得尼さんが強い。強すぎる。

登場人物作中での立ち位置
法水麟太郎主人公で探偵。蘊蓄語り大好き。
熊城捜査局長&支倉検事ワトソン枠
推摩居士事件の最初の被害者で変死を遂げる。奇蹟を引き起こす行者で寂光庵に居座っていた。戦争で両足と性器を失っているため、男性ではないと判断されて迎えられた。
盤得尼寂光庵の庵主。今回の事件を「孔雀明王の奇蹟」と信じている
浄善尼事件の二人目の被害者で尼僧。変死を遂げる。
智凡尼尼僧
寂蓮尼尼僧。
普光尼尼僧。
※「夢殿殺人事件」の犯人のネタバレ

犯人は寂蓮尼。人間の隠された力を利用した人間ピタゴラスイッチのようなトリックというか、回転する死体とか夢に出そうで想像したくないんですが……。

※「夢殿殺人事件」の犯行の動機

神秘主義に傾倒しすぎた末路―――奇蹟の翹望。つまり彼女は奇蹟が起こるのを待ち望み、奇跡を起こす推摩居士を殺して彼が生き返るのを待っているのです。寂蓮尼は今の状態の彼を仮死だと思っています。

終盤に法水が寂蓮尼に対して伏せ字を使っている事が有名ですが、その伏せ字の意味は未だに答えがありません。文章の前後から含めてこうなんじゃないかなと思うのですが、これは読者に委ねる系統ですね

失楽園殺人事件

話がしっかりでてきて、そこまで難しい言葉もなくわかりやすくて好きな話。秘密の研究所で行われていた恐ろしい実験の数々。そしてコスター初版聖書。そこまで蘊蓄語りがないからですね、この話が好きな理由。
この失楽園で兼常博士とほか二人の助手で行われていた研究は完全屍蝋。

登場人物作中での立ち位置
法水麟太郎主人公で探偵。蘊蓄語り大好き。
真積失楽園副所長。ワトソン枠
兼常龍陽事件の被害者。私財を投じて天女園癩療養所(ハンセン病患者の療養所)を作った。其の中の研究所、通称「失楽園」の所長。結核患者。
杏丸失楽園専任の医学士で助手
河竹事件の被害者。失楽園専任の医学士で助手
番匠幹枝3年近く失楽園にいた謎の女性。最終的に懐妊するも死んでしまう。異様に膨らんだ腹のまま死蝋にされる
黒松重五郎療養所の患者で松果状結節癩(ハンセン病)で亡くなり死蝋になった。
東海林徹三療養所の患者でアディソン病(アジソン病)でなくなり死蝋にされた
番匠鹿子幹枝の姉で元図書館委員。コスター初版聖書の存在を知り、金はいらないから失楽園スタッフに入れてくれと話している
ゆきんこ

すっっごい不謹慎かもしれないけど、作中に出てくる「番匠幹枝狂中手記」という単語に心を惹かれました。

※「失楽園殺人事件」の犯人のネタバレ

院長を殺した犯人は河竹。そして彼は手に入れた「コスター初版聖書」の正体を知って自殺した。

※「失楽園殺人事件」の犯行の動機

コスター初版聖書を手に入れるため。しかし人を殺してまで手に入れたコスター初版聖書は望んでいたものではなく胎児の木乃伊だったので、落胆した河竹は他殺に見せるように自殺した。

この「胎児の木乃伊」は幹枝が産んだ死産の双子の胎児を兼常博士が比喩的に例えたもの。双子の片割れが虚弱体質で圧迫されて死んだものを、聖書の活版のときにグーテンベルクの聖書に隠れたコスター聖書になぞらえたに過ぎなかった。

オフェリヤ殺し

今回はタイトルからしてシェイクスピアのハムレットが舞台なので、ハムレットの知識がわかりやすいと思ってしまいました。法水が探偵以外で男優と脚本も手掛けるスーパーエキセントリック優秀な男に書かれていますね。

登場人物作中での立ち位置
法水麟太郎主人公で探偵。今回は俳優で登場。ハムレットを演じる。伊達男で世間的にも評価が高い。
熊城捜査局長&支倉検事ワトソン枠
風間九十郎人気俳優だがシェイクスピアに強い憧れを持ち、当時の妻子を捨てて海外に。帰国するも声は変貌し、理想とするシェイクスピア系劇場は作られず、一座にも裏切られたことで行方不明。実は物語の二ヶ月前に死んでいる
衣川暁子王妃ガートルードを演じた女優。九十郎の先妻。
陶孔雀ホレイショを演じた女優で九十郎と外国人女性の娘、
久米幡江オフェリヤを演じた女優で九十郎と暁子の一人娘。父親の亡霊を見たと法水に話す。事件の被害者。
ルッドイッヒ・ロンネ国王クローディアスを演じたドイツ人俳優。演出も担当。
小保内精一レイアディスを演じた男優
淡路研二ポローニアスを演じた男優
※「オフェリア殺し」の犯人のネタバレ

犯人は陶孔雀。最終的に孔雀は自殺し、遺書を法水に残す。

九十郎は別れてすぐに孔雀に殺されている。九十郎は半分聾者だった。孔雀に抱きつかれて音を辿れなくなり動揺した所を殺されている。四幕の休憩中に法水が皆を集めて九十郎を遺体の居場所をに連れて行った辺り、それ終わってからでいいんじゃないかなと思った。

※「オフェリア殺し」の犯行の動機

自分の枷である風間を殺して本来自分の故郷に帰りたくなった。幡江を殺したのは正しく風間の娘である幡江の本能的な嫉妬。

孔雀の父親は風間ではなく全く知らない外国人。父親に先立たれた彼女の母親を風間が拾った際、母親の中には孔雀がいた。故郷のイタリアに帰りたい気持ちが日に日に募ったため。

小栗虫太郎「法水麟太郎全短編」の感想

最初の「後光殺人事件」と「聖アレキセイ寺院の惨劇」は有名な黒死館殺人事件の前の話なので、法水麟太郎という男を知るのにうってつけです。あと短編なので読みやすい。個人的には「失楽園殺人事件」が非常にわかりやすく蘊蓄も少なく読みやすいので、小栗先生の作品を最初に読むならおすすめしたい短編だと思いました。

最初から黒死館殺人事件を読むのはおすすめしない!絶対に!!!!

青空文庫で読むならこちら

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