当ブログはプロモーション記事を含みます

【ネタバレあり】横溝正史・金田一シリーズ!短編集「迷宮の扉」を紹介

  • URLをコピーしました!

今度は短編集「迷宮の扉」を紹介します。この短編集には「迷宮の扉」「片耳の男」「動かぬ時計」の3つの短編が収録されています。迷宮の扉以外は金田一耕助が絡まない単発作品で、ミステリー要素もほぼ無い珍しい作品です。

ゆきんこ

今回は2022年7月に復刊した「迷宮の扉」に収録した3つの作品のうち、主に「迷宮の扉」を中心に紹介します。ネタバレ全力なので、初見の人やネタバレ苦手な人はお引取りください。

今回の表紙はこちらを使用させていただきました!

目次

迷宮の扉

三浦半島巡りを楽しんでいた金田一耕助は、暴風雨に遭い竜神館という屋敷へ逃げ込んだ。直後、一発の銃声とともに背中を撃たれた男が土間に倒れ込んできた。屋敷の主の誕生日にケーキを切るためだけに訪れるという、不思議なその男の上着には真っ二つに切断されたトランプのカードが入っていた……。莫大な財産を巡る人々の葛藤をテーマに、完璧なトリックと綿密な構成で描く表題作の他、「片耳の男」「動かぬ時計」を収録。

迷宮の扉より

全く同じ2つの館、誕生日を伝えに来る怪しげな男、当主の子供の双子、それぞれの彼らを推す執事の夫婦、遺産相続の争いを促す奇妙な遺言状開封条件やその内容、病気で伏せる当主……など遺産相続の骨肉の争いのパースがこれでもかと揃っている事件です。最初の舞台が都内や岡山ではなく三浦半島というのも珍しい話。シャム兄弟って名前のインパクトのせいか、この後の事件にも登場しますね。悪霊島とか

遺産相続争いを促す遺言状
  • 東海林竜太郎の全財産は日奈児・月奈児の双子どちらか一方に譲られる
  • 全財産を譲るのが双子のどちらかであるかは竜太郎の死後一周忌に発表されることになる
  • 双子のどちらかが死ねば財産はその片方に譲られる
  • もし双子が死んだ場合、その財産は加納美奈子に譲られる
  • 双子、加納美奈子が死んだ場合、法律的継承順序に乗っ取って竜太郎の血縁者に譲られる
登場人物作中での立ち位置
金田一耕助私立探偵(主人公)
東海林日奈児(しょうじひなこ)竜神館の当主で、一馬になつく。左側の大怪我の痕はシャム兄弟の分離手術の痕。二人目の被害者。
東海林月奈児(しょうじつきなこ)海神館の当主で、五百子になつく。シャム兄弟の分離手術の痕があって病弱。四人目の被害者。
降矢木一馬(ふるやぎかずま)日奈児の後見人で竜太郎の義兄。60歳をすぎるが壮健な肉体を持ち竜神館の一切を取り仕切る。
降矢木五百子(ふるやぎいおこ)月奈児の後見人で一馬の妻。頭の回転が速く一馬と反目しあっている。180もある女傑。
小坂早苗日奈児の家庭教師
緒方一彦月奈児の家庭教師
郷田啓三竜太郎の旧部下で毎年竜太郎の使者として誕生日のケーキを切る係を担当していた。最初の被害者。
加納美奈子竜太郎付きの看護師 竜太郎と恋人
虎若虎蔵竜太郎の忠実な部下で身の回りのことを手伝う。遺言状を破いて焼いてしまう
恩田平造竜太郎の部下で執事
立花勝哉日月商会の社長代理で竜太郎の親友で全てを委任されている
東海林竜太郎日奈児・月奈児の父親(竜太郎の妻が一馬の妹昌子)。一代で財を築いた傑物。咽頭癌で余命幾ばくもない
一馬が飼っていた番犬。郷田を殺した犯人を追うも返り討ちに遭って亡くなる。コバルト色の髪を咥えていた
古坂綾子竜太郎の姉梅子の子供。行方不明になっている
酒井圭介竜太郎の姉松子の子供。私刑に遭って死にかけだったころを上海ジムが交渉で助け入院中。三人目の被害者。
上海ジム密輸団のボス。かつて冤罪で死刑確定だったのを金田一によって無罪になった過去がある。

隼が咥えていた「コバルト色の髪」は長期に渡る鉱山労働の末変色した労働者の髪色です。竜太郎は戦争中、マレー半島のコバルト鉱山の監督をしていました。マレー人の鉱夫以外に12人の日本人監督がその中にいましたが戦争が激しくなるにつれてコバルトがもっと必要になったため、上層部は日本人監督を鉱夫にするよう命じます。重労働のすえ、日本人監督の髪の色はコバルト色に染まってしまったという話です。戦争後、彼らは竜太郎に復讐を誓いますが、最終的に竜太郎は12人全員に謝罪し、多額の賠償金を支払います。しかし一人だけ支払えずに死んでしまった日本人がいて、それが加納周作という加納美奈子の父親です。

ゆきんこ

トリックも結構綿密に作られて、時系列を負うと「なるほど」となります。ただなんの落ち度もない被害者、とくに双子が本当に可哀想

※「迷宮の扉」の犯人のネタバレ

郷田、日奈児、月奈児、酒井圭介を殺した犯人は小坂早苗と緒方一彦です。小坂早苗は竜太郎の姉梅子の子供で、本名を古坂綾子と言います。小坂早苗(古坂綾子)は犯人だと暴かれると毒を飲んで自殺しますが、共犯者の緒方一彦は逮捕されます。

もう一人の相続人である酒井圭介を殺したのは看護師に変装した緒方一彦で、変装した彼を上海ジムの部下の花井が見ていて、彼があの時の看護師だと証言します。おそらく郷田を殺したのは緒方で、日奈児と月奈児を殺したのは早苗だと思われます。

※「迷宮の扉」の犯人の動機

東海林竜太郎の莫大な財産を早苗に相続させて彼女と結婚して財産を手に入れるため。2人はすっかり竜太郎が死んだと思っており、残りの日奈児、月奈児、美奈子、酒井がいなくなれば唯一の血縁者である早苗に転がりこむと思い、彼らを殺害しました。

「東海林竜太郎」とされて死亡した咽頭癌の男は実は加納美奈子の父親(加納周作)であり、本当の東海林竜太郎は生きていました。とすれば、上記の贖罪理由は嘘なのかとおもいますが本当だと私は思います。ただ死んでいなかっただけ。この入れ替え事件は立花、虎若、加納、恩田から猛反対を受けたが竜太郎の決意は固く、三人は竜太郎が本人でないことを解っていながら、竜太郎として仕え日奈児月奈児陣営と接していました。竜太郎自身、あのような遺言状を書けば日奈児・月奈児が狙われることは承知の上でした。

この理由は竜太郎が愛する部下の郷田殺しの犯人をどうしてもこの手で捕まえたかったため。犯人をあぶり出すために憎み合わせるために用意した遺言状を開封する際に奪って処分した虎若は変装した竜太郎で、月奈児は死ぬ前に「虎若が二人いる」と証言していました。

「片耳の男」と「動かぬ時計」

連載長編の合間に横溝先生がジュニア系雑誌に寄稿した短編もの。金田一耕助は登場せず、そもそもの登場人物も少なめ。ミステリー要素もほとんどなく、ロマン寄りです。両方とも不遇な子供(兄妹)に匿名の誰かが毎年贈り物を送ってくるので、その宛先を突き止めようという展開です。

片耳の男はメインの鮎沢兄妹の父が乗っていた船「北極星」と北斗七星がストーリーに関わってきます。財宝探しのような展開なので、陰湿で重苦しいものもなくさらっと読める作品です。なにより最後が明るい。

片耳の男の登場人物作中での立ち位置
宇佐美慎介医学生。主人公。
鮎沢由美子チンドン屋に狙われていた少女
鮎沢俊郎由美子の兄。発明家の卵
チンドン屋の男鮎沢家のとある贈り物を狙った男。右耳が半分千切れている。本名は山崎八郎で篠崎の残した財産を横取りしようとする
鮎沢家の父親海運業を営んでいたが、数年前船「北極星」ででかけたときの嵐で死亡。砂金を手に入れる大事業を考えていて全財産をつぎ込んでいた。
篠崎伝三毎年鮎沢兄妹に贈り物をしていた男。病気で死亡するも2人に財産を残す。北極星の航海士で兄妹の父親を見殺しにしたことを悔いている

動かぬ時計の主人公、眉子のもつ金時計の中にカバーの中にあった写真の女性と、その日眉子が夢で見た内容を照らし合わせるとおそらく……となりますが、真相は闇の中です。ちょっとしんみりする。

動かぬ時計の登場人物作中の立ち位置
山野眉子電話係の少女。高価な金時計を持っている
山野六造眉子の父。眉子を男手一人で育ててきた
深見八重子事故死した金持ちの奥さん。眉子のもつ金時計の中の写真の人物

短編「迷宮の扉」のまとめ

ほとんどが迷宮の扉の紹介になってしまいましたが、中島氏の解説もほぼ最後まで迷宮の扉について割かれているので問題ないなと思いました。片耳の男と動かぬ時計は登場人物も殆どいませんし。
迷宮の扉自体はこれまで実写化されたことがない金田一耕助作品のためあまり知らない人も多いのではないでしょうか。私もそうでした。やはり横溝先生の読みやすい文体と続きが気になる展開の続出なので、映像化すれば話題になりそうな作品だと感じました。でもやっぱりシャム双生児が無理だよなぁ
片耳の男と動かぬ時計はこの短さだからテンポも読了感もあって良いのだろうなと感じました。片耳の男の宇佐美がなかなかの好男子なので別作品に登場しているといいなと思ってしまう。金田一先生はカラッとした男を書くのがうまいと思いました。

もし読む機会があればぜひとも読んでみてください。ただ結末があまりにも消化不良だったし謎が残っていてこちらで補完する伏線が多いのでそういうのが気になる人はちょっともやるかもしれません。ですがトリックやミステリーもしっかり練られているので初見で犯人を当てるのは相当難しいとおもいました。私はずっと降矢木五百子が犯人だと思ってました。

金田一耕助シリーズの短編集はこちら

  • URLをコピーしました!
目次