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【ネタバレあり】横溝正史・長編「迷路の花嫁」を紹介

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横溝先生の金田一耕助長編シリーズは「エログロ描写強め」「遺産相続を巡る一族の骨肉バトル」に分かれる印象です。実写化、映画化されるのはもっぱら後者ですね。今回読んだタイトルの「迷路の花嫁」の舞台は東京都内で、女性を籠絡するとある宗教家の男(元凶)と、彼を取り巻く様々な人々の話で、どちらにも属さない珍しい話です。

古谷一行さん主演の金田一シリーズで一度ドラマ化しています。ただ一部のキャラクターが削除されていたり改変されてます。

長編まとめはこちら

目次

「迷路の花嫁」のあらすじ

駆け出しの小説家松原浩三は、暗い夜の町で偶然行き会った若い女の異常な様子に不審を抱いた。だが、女が飛び出してきたというくぐりの中に警官と踏み込んだ彼は戦慄した! 軒灯にヤモリが這うクモの巣だらけの無気味な家、縁側から真っ赤な猫の足跡が続き、血の海と化した座敷には、無数の切り傷から鮮血をしたたらせる全裸の女の死体が……。名探偵・金田一耕助はこの謎を解けるのか、横溝正史の傑作長編推理小説。

あらすじより

この「くぐり」は「くぐり戸」の略称です。横溝先生の作品を読んでいると、当時使用されていて今はあまり使われない言葉がでてくるのでとても勉強になります。

くぐり戸 とは

扉や戸などの一部に設けた小さな出入口用の戸。防火扉1枚の大きさが3㎡以上の場合は、建築基準法で潜戸(有効開口W750×H1800以上)を付けることになっている。

引用元:サッシ・ドア関連用語集 Terminology 2018

迷路の花嫁の登場人物

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵
松原浩三「迷路の花嫁」の主人公。最近売出し中の小説家だが株で一山あててそれなりに資産家。多門をとても憎む
宇賀神薬子最初の被害者。多門の弟子の霊媒師で体中に痕が残されていた。その傷跡は薬子が自分でつけたもの。
宇賀神奈津女本名横山夏子。薬子の弟子で身の回りの世話をしている。建部多門と関係がある。直衛と薬子の子供。
本堂千代吉・蝶太浩三と一緒に薬子の死体を発見した「いざり」の親子
藤本すみ江薬子の女中。事件当時から行方不明だが後に死体となって発見される。事件の二人目の被害者。
滝川直衛滝川呉服店の主人
滝川恭子浩三と千代吉が薬子の家で遭遇した「花嫁姿の女性」
植村欣之助恭子の婚約者
山村多恵子バー「レッド・フラワー」のマダム。旦那が病気に臥せって不安なところを多門につけ込まれる。一人娘の喜美子がいる。
お繁民宿の女主人。多門の被害者の一人だが、岩本組のトップがお繁を迎えいれ、多門と縁を切る
瑞枝多門の家の世話周りをする女性。多門に肉体的にも弱みを握られて引きずられてしまった女性の一人
都筑民子・春彦・昌子民子は浩三の父親の愛人で、春彦はその子供になり浩三とは異母兄弟。昌子は民子の娘で死亡している
建部多門心霊媒師。祈祷も行っていて女性を籠絡する妖気を誘発し多くの女性を絡め取る男。全ての元凶。

この話の主人公は宇賀神薬子の殺人現場に出くわした小説家の松原浩三氏。本堂千代吉の「いざり」は足の不自由な人という差別的な言葉として広く知れ渡っています。他にも多くの登場人物がいますが、話に関わる人物を紹介しました。そして金田一シリーズで金田一以外の作中ストーリー主人公がいるということは…………

いざりとは

 ひざや尻を地につけたままで進むこと。膝行しっこう
 足が不自由で立てない人。

はじまりは松原浩三が「ひところし」という声を聞いた本堂親子と会ったこと

松原はよる歩いているとき、一輪車に座っている本堂親子と出会います。彼は宇賀神薬子の屋敷を指さして「ひところし」という声を聞いたのですが、自分は足が不自由なのでなかなか動けない、だから見てきてほしいと松原に頼みます。そのとき宇賀神の屋敷から逃げてきた女性が松原たちとすれ違いますが、よほど慌てていたのか白い手袋を落として去っていきました。それを松原たちが伝えたのは少々遅め。松原は警官を呼んで宇賀神薬子の屋敷に突入、そこには猫に囲まれ傷だらけの宇賀神薬子の死体と毒殺されている番犬がいました。傷だらけの薬子の死体ですが致命傷となった傷は一つのみで、それ以外は自傷だと診察されます。

宇賀神薬子には「宇賀神奈津女」という弟子の女性と、「藤本すみ江」という女中、「河本」という書生が住み込みで彼女の屋敷で働いていました。女中の藤本は行方不明、奈津女と河本はその日外出していました。毒殺されていた番犬は躾がしっかり届いており、薬子と奈津女以外が与えた餌は決して食べません。番犬に毒入り餌を食べさせた人物とは?

行方不明の藤本すみ江は、後日お寺の裏側で死体となって埋められているのが発見されました。その現場にも松原の姿があったため、警察は彼をこの事件に関わる重要人物だとしてマーキングします。

逃げた女は、まさに花嫁

「白い手袋」の女性は老舗・滝川呉服店の店主「滝川直衛」の一人娘「恭子」でした。彼女は植村欣之助と結婚を控えた女性ですが、結婚式当日は気分が悪いと様子がおかしかったのです。そこに乗り込んできたのは警察官。霊媒師殺人事件の重要参考人として話を聞きたいという警察官に、彼女は頷きます。なぜ手袋があったのか、それは事件当日彼女が薬子に会いに行った証拠です。理由を尋ねる直衛に対し恭子は口を結んで黙秘します。

任意同行の際、恭子は欣之助にこのような女なので婚約を破棄してくださいと願いでるも欣之助は断り、どういった事情なのかこちらも勝手に調査すると言います。直衛は薬子を殺したのかどうか娘に尋ねると彼女は首を横に振ります。それは絶対に違うと。

宇賀神薬子の師匠「建部多門」

天涯孤独とされ目立った血縁者がいない宇賀神薬子には、彼女を霊媒師として育てた著名霊媒家「建部多門」がいました。警察は多門から薬子の人生を聞き取ります。

曰く彼女は呉服店の当主の跡を継ぐ前の滝川直衛と恋愛関係にあり一人の子供を産み落とします。ちょうどその時は直衛が当主の後を継ぐかどうかの小さな騒動になっていて、先代当主は直衛と薬子の赤ん坊を里子に出してしまいました。この赤ん坊こそが「宇賀神奈津女(本名:横山夏子)」であると多門はいいます。非嫡出子の奈津女の存在をちらつかせ、直衛を揺すっているようにも思えますが、直衛は黙秘します。

そして自分は彼女に霊媒師の才能を見出し一流の霊媒師にした。ただ才能は彼女より弟子の奈津女のほうが高く自分はそっちを溺愛していた。奈津女に嫉妬した薬子が自分にも力があると躍起になったんじゃないかと多門は豪放磊落に語ります。しかし多門は端から目をつけていた「宇賀神奈津女」が「横山夏子」に変わって自分の手を離れてしまったことを知り激怒します。

松原浩三と「横山夏子」

宇賀神奈津女を横山夏子に戻し、一人の女性にしたのは松原浩三でした。彼はかねてより夏子(奈津女)に好意を抱いていて口説き落とし、駆け落ちに近い感覚で多門の手を離れて松原の知り合いの家に身を寄せることになりました。そのあいだのデートも、薬指の指輪をもらったり綺麗な服を着たり、美味しい料理を食べたりとまさに夫婦そのものです。

松原が案内した場所は父親の妾の家。そこで夏子は妾……民子とその息子・春彦と出会います。民子には連れ子の昌子がいて、春彦は松原の父親との子供。したがって春彦と昌子は異父兄弟だけど、松原と春彦は異母兄弟、松原と昌子は血の繋がりがない兄妹になります。多門が夏子を探していることを知った松原は、しばらくここで身を隠すよう夏子に言います。

建部多門に縛られ続ける女たち

精魂逞しい多門には多くの女性が囚われています。作中に出てくるだけでも屋敷には彼女の身の回りの世話をしたり取次をする「瑞枝」、バーのマダム「山村多恵子」、民宿の女将「お繁」、そして宇賀神奈津女と宇賀神薬子です。彼女たちは心から多門に従っているわけではなく、内心では彼から離れたくてたまらない気持ちでいっぱいです。みな彼の恐ろしい誘惑に抗いきれず、一人は夫と子供、一人はお金を、一人は場所を、と狂わされていました。

女性を精神的にも支配する多門は金と肉欲に勝り現状に満足していましたが、薬子の死去によって歯車が壊れ崩壊していきます。
例えば、自分に借金がある民宿の女将「お繁」が、土木作業の岩崎組長と縁を結んでやり直すために多門と縁をきるといってきました。その相手はどんな男なのかと顧客を装い民宿に泊まり威圧してお繁を取り戻そうとする多門でしたが、結果は無惨にも失敗。相手は肝が座っていて、多門が罵声を浴びせたりお繁を罵ってもカッとなることはなく冷静に対処しました。お繁自身も多門になびくことはなく、客として対応したことで完全に敗北したと多門は心の中で悟ります。岩崎夫婦を全面的にバックアップしたのは松原でした。彼は岩崎組に仕事を斡旋しました。最も松原は紹介しただけで、あとは岩崎組の力によるものですが。

襲撃される松原浩三、そして…

「横山夏子」「山村多恵子」「お繁」「瑞枝」………建部多門の吐く妖しい蜘蛛の糸に絡め取られた彼女たちは松原の根回しと尽力もあり、多門を捨て新しい人生を歩み始めました。多門に籠絡されかかかった「滝川家」もお繁や時間のすれ違い、欣之助の尽力もあり毒牙にかかることはありませんでした。滝川家に金の無心をした多門でしたが応対した欣之助に素っ気なく突っぱねられ、脅しても何をしても意味がなく帰るしかありませんでした。

自分にすがるしかなかった女が次々といなくなり己の人生を知って飛び去っていく……多門はとても恐怖したでしょう。そしてついに彼は彼女たちの背後に居る男の存在に気が付きます。後ろから名を聞いて反応した松原の頭に重い一撃を与えるとそのまま多聞は逃走。松原は病院に担ぎ込まれましたが面会謝絶の大重体。
警察も大慌てするなか、一人の女性が松原のいる病院を訪れます。面会謝絶で断られた彼女は看護師に言付けを頼み、そのまま姿を消します。彼女の名前は山村多恵子、――――建部多門を殺した女性でした。

「迷路の花嫁」のネタバレ

ここからはネタバレになります。迷路の花嫁はトリックよりも登場人物をとりまく伏線の回収が丁寧なのでぜひとも一度呼んでみてください。

※「迷路の花嫁」の犯人

この事件の犯人は松原浩三氏。薬子を殺したのは浩三だが、すみ江と番犬を殺したのは薬子。すみ江を殺したのはヒステリックな衝動で、番犬は吠えて人を感づかせるため。

なお終盤で自分を破滅に追い込む浩三の存在に気がついた建部多門によって襲われ、意識不明の重体になり面会謝絶。その後奇跡的に回復する。多門は浩三を襲ったことを知った山村多恵子によって大量の硫酸を顔にぶっかけられのたうち回って死亡。多恵子はその後浩三がいる病院にいき、そのまま駅のホームから投身自殺する。

※「迷路の花嫁」の動機

自分がかつて愛した女性・昌子を犯し苦しめ自殺に追い込んだ建部多門を破滅させたかったから。そして薬子を殺した理由は、薬子が撮った多門と昌子のセックス写真が決め手となって昌子が自殺したため

浩三は多門に絡め取られた女性たちを救うために奔走している。その甲斐もあってかほぼ全ての女性が多門から解放されていて、終盤、重症の彼がいる病院には多くの人間が駆けつけている。

※ただし…

中盤から松原浩三がメインの愛情と義侠と復讐のストーリーがメインとなり、薬子の事件はほぼ放置されてしまった感があるため、ミステリーよりも人情系に近いなとおもった。※この点は解説で指摘されている

迷路の花嫁のまとめ

殺人事件そのものは多くなく、それ以上に登場人物を取り巻く壮大な絡み合いがとても素晴らしい作品でした。犯人については察する人も多いでしょうし、でもその理由は?となります。あと「多門●ねーーーー!!!!女の敵ーーーー!!!!」となる読者は多いと思います。私もですだいたい建部多門のせい。

画像はぱくたそさんよりお借りしました

サムネはこちらで作成しました

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