当ブログはプロモーションが含まれています 気になる!

【ネタバレあり】横溝正史・金田一シリーズ!短編集「貸しボート十三号」を紹介

長編ばかり紹介していたので今回は短編を。ずっと探していた「堕ちたる天女」が復刊タイトルの中に入っていたことを知り、ショックで寝込みました。

またミステリー小説、短編集ということで長編のような難解なトリックを連想してしまいがちですが、短編集は登場人物の心情や内面、動機やシチュエーションの突飛さが強めなので、それらを期待すると肩透かしを感じるかもしれません。ただ犯人はわりと最後までわからない短編が多いので、犯人は誰だろうかと考えながら読んでみてもよいかもしれません。

ゆきんこ

今回は2022年2月に復刊した「貸しボート十三号」に収録された3つの短編集「貸しボート十三号」「湖泥」「堕ちたる天女」を紹介します。犯人のネタバレなど満載なのでご注意ください。

ありさん

あれ?「湖泥」は以前紹介してなかった?

ゆきんこ

うん。だから今回はそれを抜いた2つです。作品多いから収録作品がかぶるのはしゃーない。

ゆきんこ

そして表題の「貸しボート十三号」はNHKの金田一短編集で実写ドラマ化済です。

「湖泥」はこちらで紹介済

今回の写真も全て「ぱくたそ」からお借りしました

目次

貸しボート十三号

白昼の隅田川に漂う一艘の貸しボート。中を見た人々は一斉に悲鳴を上げた。そこには首を途中まで挽き切られ、血まみれになって横たわる、男女の惨死体があったのだ。名探偵・金田一耕助が捜査に加わるなか、事件直前に、金縁眼鏡をかけ、鼻ひげを蓄えた中年紳士がボートを借りたことが判明。謎の人物を追って捜査が開始されたが、事件は意外な方向に……。表題作に「湖泥」「堕ちたる天女」を加えた、横溝正史の本格推理。

「貸しボート13号」より

男女の首が半分ずつ挽き切られている、というなかなかショッキングな遺体から始まります。実写化したとき、この部分をどうするのだろうと思っていましたが、まさか紙人形を使って表現するとは!この表現には驚きしか有りませんでした。

金田一シリーズには珍しい大学生がメインで、部員の熱い友情が見れる話。友達のために奔走する男子生徒というスポーツマン要素もある。最後の犯人を追い詰めるシーンも珍しいシチュエーションです。ある意味自首?のようなものかな。でもカラッと明るい話だと思いました。掲載は昭和32年8月「週刊朝日別冊」

登場人物作中での立ち位置
金田一耕助私立探偵
大木藤子大木家夫人。最初の被害者。駿河譲治と不倫の関係だった
駿河譲治X大学のボート部チャンピオン。大木ひとみの家庭教師で二番目の被害者。美穂子の婚約者。
大木健造官僚で藤子の旦那。汚職疑惑が有る某省課の課長。
八木信作ボート部員。駿河・矢沢と仲が良かった。美穂子が好きだった。事件の真相を書いて自殺未遂をしている。
矢沢文雄ボート部員。美穂子が好きだったが駿河との婚約を知りショックで酒浸りになり退部になった。
児玉潤ボート部員。
青木俊六ボート部員。
片山達吉ボート部員。
古川稔ボート部員。
川崎美穂子神門グループの専務の娘。駿河の婚約者でボート部のマドンナ。
神門貫太郎神門グループの社長。美穂子の伯父で金田一耕助のパトロンの1人。

とにかくストーリーのテンポが良く、最後は切なくも爽やかに終わる珍しい話です。青春ストーリーでした。
評価が高い内容なのも、金田一シリーズには珍しい展開だからかも? 合宿の小母さんにライスカレーをもらう刑事さんたち、という人間味あふれるシーンもありました。

※「貸しボート十三号」の犯人のネタバレ

「大木藤子」を殺したのは「駿河譲治」ですが、駿河を殺したのは「川崎美穂子」です。そして彼ら(大木藤子・駿河譲治)の死体を処理したのは「八木信作」です。

美穂子は大木藤子によって、駿河との密会を見せつけて手を引かせるために手紙で呼び出されましたが、少し会話した後全く互いに引かなかったので会話を諦めます。美穂子は誰か来たと本能で倉庫の押し入れに隠れます。そして駿河が大木藤子を殺し、死体を解体しようとする所を隙間から見てしまいます。狂気に陥った駿河は美穂子の首を絞めて殺そうとしますが、美穂子は防衛本能で近くにあったナイフで駿河を刺殺します。そして美穂子は八木に助けを求めました。

※「貸しボート十三号」の犯人の動機

いわゆる男女の関係のもつれ、もとい口封じです。駿河は家庭教師先で大木藤子と不倫関係を結んでいましたが、美穂子との婚約が決まり、藤子と不倫の関係を解消する予定でした。しかし藤子は駿河に本気で熱を上げていて、このまま関係を続けないなら世間にバラすと駿河を逆に脅します(藤子は娘を捨ててでも駿河と駆け落ちするつもりであり、駿河と美穂子の関係を解消するためにあらゆる手を使っていた)

また、藤子の旦那の大木健造は汚職による大金を手に入れたことであちこちに愛人を作り家に帰らなくなったため、藤子はあてつけのように娘の家庭教師の駿河を口説いて懇ろな関係になりました。

美穂子から事の仔細を聞いた八木はボート部の部員の名誉と友情を守るため、猟奇殺人犯の被害者にみせかけるように惨死体にし、ボートに乗せて川に流しました。

「貸しボート十三号」はNHKで「シリーズ横溝正史短編集Ⅱ」にて実写化されています。このシリーズは再現度が高くかなり面白いのでおすすめです。いまだとサブスクで見れるのかな……?

堕ちたる天女

金田一耕助作品のなかで見たかった作品のひとつ。収録されている本が絶版となっていて、諦めていたのですが角川文庫の横溝正史作品復刻シリーズに収録されていて、ようやく見ることができました。怪奇エログロ系で個人的にとても楽しめました。

内容は「幽霊男」「花園の悪魔」のような都会のキャバレーやストリッパー嬢がメインの話です。石膏に詰められた死体は江戸川乱歩作品を彷彿とさせますね。でも近視+泥酔状態とは言え、変装した人間を見破れないかなぁ。場所は浅草の花鳥劇場で事件のはじまりは5月10日。掲載は昭和29年6月「面白倶楽部」。

登場人物作中での立ち位置
金田一耕助私立探偵
リリー木下(22)最初の被害者で天女像の石膏詰めで発見された。人気ストリッパーで同性愛者。「堕ちたる天女」と呼ばれていた
双葉藍子(22~23)リリーと双璧の人気ストリッパーで中河と一夜を共にした。近視。第三の被害者。
浅原三十郎(45~46)ストリッパー劇場花鳥の支配人でリリーや藍子の上司。同性愛者。
中河謙一(34~35)彫刻家でリリーのパトロンかつ恋人。黄色いマフラーをしている
水原鶴代(32~33)リリーの恋人でバーのマダム。肺病を患っている
高松アケミキャバレー花園で働くダンサー。杉浦と連れ立った後行方不明となり、ニンフ像の石膏詰めで発見される。第二の被害者。
杉浦陽太郎(32)アケミとでかけた男。美青年。彫刻家で黄色のマフラーをしている。中河謙一の正体とされ、事件の重要参考人だが行方不明。実はソドミア(同性愛者)。
遠藤由紀子リリー木下の石膏を運んでいたトラックを見た少女
古川五郎藍子と中河を中河のアトリエに運んだタクシー運転手
都築マリキャバレー花園のダンサーでアケミの友人
川上三蔵キャバレー花園の支配人
清水隆一「,○(ちょんまる)先生」を連載している漫画家。杉浦の秘密を知っているので彼に同情的。

事件終盤に岡山から磯川警部が東京にやってきます(今回の犯人は前科があり、その前科は岡山県で磯川警部が担当だった)。ファンが見たかった「磯川警部と等々力警部の合同捜査」が叶う瞬間でもありましたが、ここで幕引きとなっていました。つまり二人が犯人を捕まえる流れは脳内で保管してね、ということでしょうか。

※「堕ちたる天女」の犯人のネタバレ

リリー木下・高松アケミ・双葉藍子、そして杉浦陽太郎を殺した犯人はリリー木下の恋人「水原鶴代」と花鳥劇場支配人の「浅原三十郎」です。
犯人と目された中河謙一はそもそも存在しない架空の存在で、杉浦が中河謙一と偽名を名乗って女性を石膏詰めにして殺す快楽殺人者と思わせるトリックです。
杉浦は同性愛者であり、浅原にその弱みを握られつつ利用されました(深読みすると、杉浦の年上の恋人が浅原の可能性ではないだろうか)。

※「堕ちたる天女」の犯人の動機

リリー木下が加入した500万円の保険金目当てです。リリー木下は身寄りがなく、恋人の水原鶴代を受取人に指名しています。高松アケミはこの事件の残虐性をより強調するため(動機をカモフラージュするため)、かつ杉浦に容疑を被せるために殺されました。藍子は中河謙一の正体が水原だと看破されるのを恐れて殺されました。そして行方不明の杉浦陽太郎もまた犯人たちに殺されていることが終盤になって発覚します。

彼らは初犯ではなく以前も似たような保険金詐欺事件を岡山で起こしており、名前を変えていました。彼らの当時の事件と照らし合わせ、かつ逮捕するために磯川警部が部下を連れて合流します。

金田一耕助短編集のまとめ

どれも面白く、個人的にはおすすめしたい復刻短編集です。どれも面白い作品ですし、実際に読んでしんみりしつつ読了後の余韻を味わってほしいと思います。「堕ちたる天女」読めてよかったーーー!!!!!

金田一耕助の短編集はこちら

©フリー素材サイト「ぱくたそ」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次