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【ネタバレあり】横溝正史・長編「夜歩く」を紹介

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没後40年&生誕120年記念で続々復刊されている横溝正史先生の作品。「夜歩く」は令和三年に復刊した長編作品。「八つ墓村」「悪魔の手まり歌」などの「岡山編」の作品で1973年発行作品。古谷一行さん主演の1978年版、小野寺昭さん主演の1990年版で、二回映像化されています。原作再現は難しいので、独自設定が盛り込まれてました。例えば四万太とお柳が不倫していたり、「私」の設定が変わっていたり

目次

夜歩くのあらすじ

「われ、近く汝のもとに赴きて結婚せん」という奇妙な手紙と佝僂(せむし)の写真が、古神家の令嬢八千代のもとにまいこんだ。三日後に起きた、キャバレー「花」での佝僂画家狙撃事件。それが首なし連続殺人の発端だった……。
因縁の呪いか? 憎悪、貪欲、不倫、迷信、嫉妬と、どす黒い要素が執念深くからみあって、古神家にまつわる、世にも凄惨な殺人事件の幕が切って落とされた!!

夜歩く あらすじ

ちなみに今作のトリックは「顔のない死体」「叙述トリック」に属しますが、横溝正史氏が執筆中に高木彬光氏の「刺青殺人事件」が掲載されたことで、氏は作品のデッサンを変えたという出来事があります。また岡山編なので等々力警部ではなく磯川警部が登場します(当初は東京ですが途中から岡山に移動)。岡山に話が移動すると金田一が登場。

キーワードとなる「佝僂(せむし)」は現在では差別用語の為使用されることがありませんが、横溝氏の執筆時は問題なかった模様です(毎度のことながら一番最後に記載がある)。というかミステリーに多く登場する印象。佝僂の歴史は古く日本では平安時代から使用されていました。

人の背中の中央にあって体を支える脊柱は,胸椎の部分で後方凸に,腰椎の部分で前方凸に軽く曲がって生理的湾曲をつくっている。ときにこの湾曲が異常となり,背中の一部が円く突出した状態を〈せむし〉という。胸椎と腰椎の移行部が盛り上がるくる(佝僂)病性円背(〈佝〉も〈僂〉も〈せむし〉の意)がその典型で,鳩胸を合併する場合が少なくない。

コトバンク より
ゆきんこ

東京での事件の地名は大森・五反田・多摩・目黒と実際の地名なのに地方の事件は架空の地名を使用していることが多い気がする。配慮かな

夜歩くの登場人物

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵。今回は岡山編から登場。
屋代寅太探偵作家で本作の語り手「私」。大学時代の知り合い・直記に願われて古神家に向かう。四人衆様の末裔
仙石直記屋代の友人で鉄之進の息子。八千代に惚れている。夢遊病者。
古神八千代古神家当主織部と後妻・お柳の娘。奇妙な手紙を三枚ももらう。夢遊病もち。三人目の犠牲者。
蜂屋小市新規気鋭の画家で八千代に狙撃されたのち、古神家に招待される。佝僂。最初の犠牲者。
古神織部十三年前に亡くなった古神家の当主
古神守衛織部と先妻の息子で八千代の異母兄。佝僂。二人目の犠牲者。
お柳織部の元妾で後妻。八千代の母親。織部死後の古神家を運営している。
仙石鉄之進古神家の家老筋の家柄。古神家で辣腕を振るう。夢遊病者。
古神四万太(よもた)古神家先代当主・織部の異母弟(先々代の妾の子)
お喜多守衛の乳母。守衛を盲目的に愛している
お藤古神家の女中。蜂屋と性的関係がある。
妙照お静を預かった海藤院の尼
お静海藤院に直記が預けた精神崩壊した女性。古神家の座敷牢で直記に監禁暴行される。屋代の恋人。

古神家の一族

探偵作家の屋代寅太こと「私」は大学時代から【知り合い】の仙石直記より相談を待ちかけられます。去年のキャバレー「花」で起きた佝僂の画家蜂屋小市を狙撃した事件。それを起こしたのは直記の家「仙石家」が仕える「古神家」の娘・八千代だと。
仙石直記は大学卒業もふらふらと遊び、「私」は売れない探偵作家。ただ直記は同郷(岡山)の「私」をいたく買っており彼のパトロンもどきになっています。「私」曰く『直記と私の間には友情は一切なく打算的な関係』ということですが、どうみても直記は屋代のことが(ry

古神織部とお柳の娘だとされる八千代の本当の父親は自分の父親の鉄之進なので、直記にとっては異母妹。公然の秘密ですが、織部がそれを知っていたかどうかは不明です。古神家は古来より佝僂になる人間が多く、娘が佝僂になるか不安な織部は、幼少の八千代を連れて著名な占い師に彼女を見せます。占い師の言葉は「この子(八千代)は佝僂にならない」「この子が結婚する男は佝僂」の二つ。八千代は無軌道で奔放な美女に育ちますが非常に頭が良く、直記を一目置いています。

直記は仙石家と古神家のもつれ合いから見合う昔からの歴史的繋がりを話します。昔お家騒動で目をつけられたときも仙石家の家老が切腹をして護ったことから古神家では仙石家の人間を部下ではなく来客として扱うように。なお江戸時代には古神家の暴政に耐えかねた民百姓の代表四人が将軍に直訴するも、磔処刑になった伝説があります。処刑された四人の百姓は他の百姓たちから「四人衆様」と崇められ、今もその伝説が息づいています。
明治維新のときも仙石家の当主が生き残るため辣腕を振るい、没落していく他の大名家と違って戦後まで土地を持っているといいます。ただおかげで主従の立場が完全に逆転してしまい、仙石家は古神家の実質的な支配者になっています。

渦中の女性・古神八千代には異母兄の守衛がいます。織部と先妻の息子で、かなりの好男子ですが彼は佝僂。仙石親子を嫌っていますがそれを口にせず読書に耽る卑屈な青年です。しかも彼は異母妹の八千代に惚れていて、かつ占い師の言葉があるので八千代と結婚するのは自分だと思っています。表向きでは腹違いの兄妹であっても八千代が織部の子供ではないのは周知の事実なので血の繋がりはないからという理由で。ただ当の八千代は守衛を内心嫌っています。

八千代のところに差出人不明の手紙が届きます。二枚届いた手紙は八千代が衝動的に破り捨ててしまいましたが、三枚目の手紙は直記がとっておいたらしく、「私」に実物を見せます。手紙の内容は「汝、夜歩くなかれ」と首のない佝僂の男の写真でした。古神家の人間しか知らないことですが、八千代はかねてより夢遊病を患っていました。これを指摘されて八千代も直記も驚きます。
その男はスーツを着ていて肉体美が伺えますが、誰なのかわかりません。これに怯えた八千代はキャバレーにいたそっくりの姿をした蜂屋をピストルで打ちます。足を撃たれたので蜂屋の生死には問題有りませんでした。新聞で蜂屋の生き方諸々に興味を持った八千代は彼の病院にファンと称して見舞いに行きます。撃った時はしっかり変装していたため、誰も同一人物だとは気づかなかった模様。そして話しているうちに蜂屋と結婚したいと八千代が言い出し、退院した蜂屋を屋敷に招待します。

泊まっている蜂屋は傍若無人。八千代を情婦扱いにして好き勝手に暴れています。その好き勝手ぶりは直記も腸が煮えくり返るほどですが、より鮮明に怒りを抑えられないのは異母兄の守衛です。佝僂と佝僂で相性最悪の険悪にくわえて、完全に恋の当て馬扱いにされている為、屋敷の雲行きが怪しくなっているのです。警察に届けるまでもなく、探偵作家なら作品の名探偵のごとく快刀乱麻で解決してくれるだろうと八千代が直記を通じて「私【屋代寅太】」を東京の古神家の屋敷へと呼んだのです。

続・古神家の一族

直記とともに北多摩郡小金井の古神家の屋敷「みどり御殿」にやってきた「私」が最初に見たのは、誂いながら逃げ回る蜂屋を刀をもっておいかける鉄之進、そして鉄之進を止めようとする下男の源造の姿でした。直記曰く「親父(鉄之進)が酒のんで暴れてる」ということで、蜂屋と鉄之進でやり取りがあったものの、鉄之進が池におちてしまいそれを源造が引き上げます。鉄之進を見る直記の姿はとても冷ややかでした。そしてその一連の騒動を少し離れた所から見つめる女性こそ織部亡き後の古神家をきりもりする「お柳」でした。

「私」は直記によって紹介された八千代から、先程の騒動を聞きます。蜂屋がお柳を口説き、彼女に首ったけの鉄之進は酒を飲んでいたこともあってあっという間に怒髪天を衝き、刃物を持って蜂屋を追いかけたとのこと。お柳も若い男にちやほやされる気はしないため、特に何もしませんでした。鉄之進が振り回した刀はもともと押入れにしまってあったが、蜂屋を追いかける際に鉄之進が見つけ、鞘を抜いて手にして追いかけました。

その刀は八千代の叔父が鞘と刀をそのままに持ってくると直記に渡します。直記は受け取った刀を鞘に戻すと、彼を追い返します。抜き身の刀を鞘にしまう選択肢がなかった彼は、先代当主織部の異母弟・四万太。織部の父親が女中に産ませて里子に出してそれっきりでしたが、義侠心を働いた鉄之進によって古神家に引き取られますが少々頭が弱い模様。彼らを見て古神家の一族は頭がいかれてる奴らだ、片輪だと蜂屋は吐き捨てます。蜂屋が今まで吐き捨てた侮辱的な言葉に我慢できず屈辱だと立ち上がった守衛だが、どもってしまい何も言え返せませんでした。直記は刀をもとに戻しに、八千代は守衛を宥めて部屋に向かったので、残ったのは「私」と蜂屋。蜂屋は「私」と古神家の一族の中では直記しかいないとわかると、直記の幇間だとあざ笑います。

古神家の林の奥に座敷牢のような館があり、時々女性のすすり泣くような声が聞こえ、不思議に思った蜂屋が八千代に聞くと、直記が囲った女性がいて気が狂ってしまったので数日前直記がどこかに送ってしまったとのこと。「私」は直記との付き合いが長いがそのような扱いの女性は聞いたことがないため、不思議に思いました。

そして蜂屋は、自分のファンだという八千代が絵について全く知らないことや、惚れたので家に来てほしいと誘われたが、住んでいる人間が総じて化け物屋敷で気味が悪いこと、守衛という自分と同じような男性……佝僂の男がいることなど、古神家を非常に恐れていることを打ち明けます。それでも彼が古神家から出ていかないのは、八千代の存在。彼はなんとしても古神八千代を手に入れたいのです。そんなとりとめのない話をした蜂屋は部屋から出ていきます。「私」が生きている蜂屋小市の姿を見たのはこのときが最期でした。

直記と屋代で無銘「村正」の刀を隠す

古神家の食事は外国風に四回の食事がでるようで、昼食と晩食の間に軽食と飲み物が出ます。本来の夕食は午後九時ころになる模様。その洋館での食事の場には調子が悪いといった蜂屋の姿がなく、「私」・八千代・直記・守衛の四人。鉄之進やお柳は日本家屋のほうで食べています。しーんとして何やらいびつな空間に耐えきれなくなった八千代は、蜂屋に食事を出してくるとお盆に軽食を乗せ、さっさと二階に向かいます。しかし待てど待てど八千代は戻って来ず、しびれを切らした直記は「私」を連れて二階に向かいます。向かう前に守衛にも直記の腰巾着だとバカにされた「私」は、怒りをこめた視線を守衛に向けます。直記からの横柄さには慣れているが、それを第三者から言われるのは我慢ならないと。「私」の視線に守衛はビビります。彼を置いて二階にむかえば、少し服を乱し息が荒い八千代が廊下にいました。蜂屋に乱暴されたことを示唆し八千代は階段を降りていきます。

蜂屋を罵倒した直記と「私」はそのまま奥の部屋に入ると、ベッドの下からあるものを取り出します。それは昼間、古神四万太から受け取った刀です。直記はその刀を村正だといいます。無銘の刀だけど村正だ、という謂れがあると。直記同様鉄之進もこの刀におそれを抱いていて、直記にこの刀をわからない場所に隠してほしいといい、直記もそれに応じました。特にここ最近は酒乱がひどく、武器を振り回す病気が悪化していると。だからこそ先程の騒動で、近くの押し入れにこの刀が置かれていたのはおかしいと。直記は鉄之進に言われて仏壇の引出しにいれていて、その存在を知るのは直記以外では八千代でした。

八千代に夢遊病があるのを知っている直記は、八千代がいつか惨劇を起こすかもしれないと危惧し、この刀を金庫にしまうといいます。食堂の奥の書室にある大きな金庫。この金庫は鍵と文字盤の二段階認証もとい二重鍵。文字盤を入れてそれを持つ「私」と、鍵を持つ直記。この金庫はどちらか片方がかければ開かない金庫のため、盗まれることはないと直記は考えました。

最初の被害者は首のない男

様々な事があった為か、直記は「私」と一緒にいて眠ってほしいと強要します。「私」が古神家であった一連の出来事を思い返していると、憚るような女性の足音が聞こえます。八千代かもしれないと思ってドアを開けるとそこにいたのは女中の「お藤」。彼女は蜂屋に頼まれて水を届けに来たといいます。蜂屋はうとうとしているので再度テーブルにお盆ごと置いてきたと。お藤と別れ部屋に戻ると、窓から八千代が夢遊病のように歩いている姿がみえました。その時刻はだいたい深夜十二時ぐらい。

翌朝。蜂屋も守衛も食堂に姿を見せません。お藤の話ではふたりとも部屋にいない模様。すると空をつんざく四万太の悲鳴が屋敷に響きます。只事ではない彼の悲鳴を聞いて、「私」と直記は彼がいる庭に向かいます。四万太はしきりに何かを言おうとするも声が出ず、しきりに庭の奥を指さします。四万太の指差す方向には直記が囲っていたとされる洋館があります。洋館の中に入ると、血のついたスリッパの跡があり、更に上の階には小さなベッド。その上に寝ている男の脚がにょきとでていました。周囲は血溜まりでふたりともうっと口元を抑えます。近くに向かうとふたりとも言葉を失いました。ベッドの上に大の字になっている佝僂の男ーーー蜂屋か守衛か、誰も判断がわかりません。何故ならその男には首がありませんでした。

当初は一族の沽券に関わると警察を呼ぶのを躊躇った直記ですが、「私」から他の人間が呼ぶかもしれないと言われて立ち上がります。また部屋の中を探せばそこには「Yachiyo」と書かれた壁の文字。お柳や鉄之進もやってきました。
判別がつかないなら体に特徴があるはずだ、そして蜂屋はかつて八千代に撃たれた跡があるため、その死体に傷があれば蜂屋になります。少し後に「私」が調べると脚にピストルの傷があったため、この死体は蜂屋だと結論付けます。

女中のお藤はどこか泣いているようにみえます。お藤に守衛の居場所を訪ねますが、守衛の姿が見つからず、八千代はまだ眠っているといいます。直記はこの惨劇の凶器があの村正ではないかと考え、「私」を連れて金庫に向かいます。鍵と文字盤を組み合わせて解除した金庫の中には村正がありました。気の所為だと笑う「私」ですがそれでも気になる直記は二三度鯉口を切った後で悲鳴を上げます。その刀身にべっとりと血がついていたからです。

鉄之進たちに「私」の報告をした直記はこの事件で村正が凶器として使用されていることや警察に届け出ることを話します。そこに四万太が守衛の姿がどこにもないとお藤と同様の話をします。ただ四万太は守衛がまるでどこかに出かけたように衣類や持ち物やスーツケースがないといいます。佝僂のため外出しない守衛は友人知人が皆無だと直記はいいますが、ただ一人彼の乳母である「お喜多」の所に出かけるのでは、といいます。守衛に忠義立てし続けるため、直記たちはお喜多を遠くに暇をだしていたと。
守衛は秘密主義者であり、お喜多がいるときは彼女に掃除をさせていたが、お喜多を遠くにやったあとはお藤が部屋の掃除を行いました。ただ守衛同席の下で。お藤を連れて守衛の部屋に入るときれいに片付いていましたが、スーツケースはたしかにあったとお藤は言います。戸棚を調べると錠剤や粉末など珍しい薬が置かれていますが、とあるものを見つけた直記は笑います。それはイモリの黒焼で、その戸棚にあるものは古今東西の興奮剤、いわゆる精力剤であり守衛は性的不具者でした。

起きてきた八千代に、蜂屋があの洋館で殺されたことを話すと八千代は驚きます。八千代が撃ったピストルの跡もあったのであの死体は蜂屋だと言うと、八千代はしぶしぶ納得します。八千代は昨日の深夜十二時、洋館で守衛と逢引する約束していたからです。ただ八千代本人はさらさら守るつもりもなくさっさと眠っていました。守衛はもともとは卑屈なだけでしたが蜂屋がきた一週間はひどく興奮し高飛車になり、彼を殺してしまうかもと半ば脅迫で八千代を強引を結びました。八千代は気になりすぎた気持ちが募って夢遊病が発生したのかとこぼします。

同時に発生した行方不明の男

日が暮れる頃に警察と新聞記者が到着します。場所が入り組んでいたため、なかなか着きませんでした。「私」は立場的に限りなく第三者に近いため、警察から考えを求められます。直記や召使より、蜂屋と守衛は大喧嘩をしたうえ、八千代を巡っての三角関係のため「犯人は守衛で動機は嫉妬」というのがオーソドックス。「私」はこの説に反対し、被害者が守衛かもしれないしそう単純な事件じゃないと話します。そもそも首を切り落とす作業は大作業で意味をもった行動。もし守衛が激情のまま蜂屋を殺したとしたら何故首を切り落とす必要があったのか。実は周到に計画された計画殺人の可能性があると「私」は警察に話しました。

蜂屋の死体を死亡解剖した結果、死亡時刻は先日の深夜十二時ぐらいで、胃の中の食物の溶け具合からも判断されました。したがって八千代が持っていった食事を夜十時ぐらいに蜂屋は半分食べていたとなりますが、何故かその二時間後に消化された全く同じ食物が胃の中に残っていました。また村正を「私」たちがしまったのは夜十時半頃。あの村正の刀身についていた血は蜂屋の血液型と一致していました。
そして「私」はこの古神家に長居する予定が無かった為、仕事も貯まっています。一度自分の下宿先に戻って逗留の準備と雑誌社への電話をしたいと警察に願い出ます。警察から許可をもらった「私」は下宿先の雑司ヶ谷の古寺に戻ると雑誌社の連絡などを行い、翌朝小金井の古神家の屋敷に戻ってきます。

蜂屋は親戚がない天涯孤独の男だったため、「私」や直記、彼の友人が集まって火葬場につれていき形ばかりの通夜を行いました。蜂屋の葬式から二日後、直記のうった電報をもらったお喜多が驚いて古神家にやってきました。話を聞いたお喜多は「守衛さまは人を殺すような人ではない、あなたたちに殺された」と鉄之進・お柳・直記・八千代を指さした。しかし直記が脚に傷があるからあれは蜂屋だと言いかえせば、お喜多は「だから違うのです」と頑固して譲りません。彼女の話によれば去年の夏、ピストルをおもちゃにしていた守衛は誤って太腿に撃ってしまった。消音タイプだったので古神家の誰にも気づかれず、知られればなにかと酷い目に合わされるから誰にも言ってはいけないとお喜多が守衛にいいました。お喜多がいう守衛の銃痕を指し示す指先は、蜂屋が撃たれた場所とほとんど近しい位置でした。

警察でも写真をもって蜂屋狙撃の主治医や、守衛の医者に訪ねてみたところ、彼らも曖昧な発言で断定はしませんでした。ただ双方とも、傷跡の位置と、傷跡の種類はとても良く似ていると。しかしお喜多はこの写真(=死体)が守衛だと断定します。ただ彼女は守衛を盲目的に愛し、古神家の一族を憎んでいるため警察としても鵜呑みにはできませんでした。ただし、蜂屋と守衛の佝僂の肉体が非常によく似ている点は「私」と召使いたちが証言しています。

二人目の被害者は首だけの男

何度も取り調べをうけた古神家の一族は心身とも疲弊しています。ただ一人お喜多は平然としていましたが。特に八千代の衰弱はひどく、直前まで出会う約束や夢遊病のこと、キャバレーでの狙撃事件もあって自分が犯人ではないかとヒステリーをおこしています。八千代は警察はもう一度キャバレーの狙撃事件を調べ直し犯人が自分だと気づくだろう。そうなってしまえば終わりだ、だからここから逃げる、逃げたいと。

深夜、眠れなかった「私」は外を歩いていました。すると誰か人の気配を感じます。屋敷から庭に向かって歩いてくるのは八千代のようにフラフラと外を歩く鉄之進の姿。そう、彼も夢遊病者でした。「私」は鉄之進の前に立って手を降ってみましたが、鉄之進は全くの無反応のまま歩いていってしまいます。「私」は事件の時直記が父親に「よく眠れたか」「昨日はお柳と一緒だったのか」と聞いていたのは鉄之進が夢遊病をおこしていた可能性を考えていたことに気づきます。鉄之進は洋館ではなくぜんぜん違う方向の雑木林の奥の湧水池に向かいます。するとそこに置かれている石をどけ始めました。一つ二つ、と石をどけている鉄之進ですが、石の下に置かれたあるものを見て「私」は言葉を失い絶句します。それは人間の生首でした。これは夢だ夢なんだと「私」は自分に言い聞かせますが、彼の肩を誰かが掴みます。「私」の肩を掴んだのは四万太で、彼も鉄之進を追いかけてきたらしく息が荒い。鉄之進が隠したとしか考えられないという四万太は、その半分腐乱した生首を見て「守衛の首」だといいます。

あの死体が守衛で、首が守衛なら、蜂屋小市という男はどこにいったのだろう。そんな事を考えるさなか、直記は鉄之進に夢遊病があそこに向かって首を見つけるなんてデキが良すぎる、ずっとあの辺りに生首があるのではと考え続けていたのではないかと聞きます。鉄之進は、自分はどっしり構えていないといけない、だけど色々考え込んでしまう。生首はどこにいったのかとあれこれ考えているうちに「自分が犯人ならどこに隠すだろうか」と思い始めました。しかしそれを実行する事はできず、思考が募っていった結果夢遊病として発露したんだと。

そして八千代の姿が見えず置き手紙を残して消えてしまったとお藤が「私」たちに話します。その手紙には自分は逃げる、他人も自分も信用できないから。と書かれていました。こうして古神家の事件は東京から古神家の実家となる岡山に移るのです。

岡山の古神家屋敷と金田一耕助

守衛の首が発見され、八千代が失踪したことで警察とマスコミは蜂屋小市が犯人ではないかと彼を捜索し、世間の興味も強くなります。しかしここでストップしまったように、八千代も蜂屋も見つかりません。進捗が動かず停止した事件に対する世間の興味も別の事柄に移動してしまい引いていきます。鉄之進は岡山の古神家本家にお柳と四万太を連れて行きたいから東京から岡山に行くので留守にすると警察に連絡します。鉄之進は毎年岡山の本家にいって書類や財産などの管理処理を行っているためだと。どう警察を説き伏せたのかは不明ですが、鉄之進たちは本家がある鬼首村に向かいました。

「私」は直記に請われて岡山に向かうことになります。直記曰く平和だが刺激がなく、「私」をからかったりしないとつまらないと。切符代は直記が出してくれるため「私」は渋々岡山に向かいます。列車のとき隣りにいたのはもじゃもじゃ髪に帽子、和風の着物を着た瞳がキレイで叡智をたたえた不思議な男性。最寄りのK駅で直記と合流し、彼が手配した牛車の荷物置き場にのるとき、一人の男性が自分も乗せてほしいと声をかけます。彼は列車で「私」と同席していた男性で、金田一耕助と名乗りました。直記も「私」も金田一を信用できずぞんざいな扱いをしますが、彼は直記の父親・鉄之進に依頼されてきたと話し、牛車を途中下車しました。

直記は「私」を呼んだもう一つの理由を話します。それは失踪し今や容疑者扱いされている八千代が、二日前ふらりと岡山に帰ってきたからです。鉄之進たちも八千代に弱いところを握られているため、彼女を警察に突き出せず腫れ物のような扱いで、離の一番奥に押し込めています。あのような置き手紙を残した無軌道な彼女が何故急に岡山の本家屋敷に帰ってきたのか、直記は蜂屋に追われて逃げ込んできたのでは、と考えます。

岡山の古神家屋敷につくと女中のお藤がいました。彼女も数日前に東京から呼ばれていました。そしてすでに来客がいて直記はそのお客と部屋で話し始めました。「私」はお藤に着物を用意してもらって別室に着替えています。お藤に直記の客につきますが、隣村の尼寺の妙照という尼さんで、直記が何回かお話をしています。あとで直記に聞いてみれば寄付の話だと彼は言いましたが、何故か直記は妙照と「私」を合わせないようにしていました。八千代はすでに寝床に入っているらしく、合うのは難しいとのこと。そして鉄之進は呼び寄せた金田一耕助と話し合っていました。

三人目の被害者は首のない女

その夜、鉄之進の酒乱が発生して刀を振り回してお柳に斬りかかるのを四万太が必死に止めています。お藤に頼まれ仕方なく直記と「私」が介入して止めます。直記はお柳に「少しは反抗の手順を覚えたらどうだ」と窘めますが、お柳の反応はふんぎりがつかないもじもじとしたもの。刀を鞘にしまった四万太が刀を直記に渡し、そのままお開きになります。直記は刀を「私」に預かっていてほしいといって自室に戻ってしまいます。客間で眠る「私」の不安は高まりますが予感は的中。床の間においた刀がなくなっています。

直記を起こして刀がないことを説明すると、彼は八千代がいるかどうか確認しに行きました。彼女の姿はなく、布団まだぬくもりがあったため、直記は八千代が刀に興味を持ち夢遊病を起こしたといいます。外は嵐のような大雨。レインコートを着て八千代を探しに向かう「私」と直記に、厠から金田一が大雨のなかどこに行くのかと声をかけます。八千代の存在は秘密にしているのでどう言い訳しようかと考えていますが、金田一は大雨の夜を歩く八千代の姿を見たと話し、彼女が自分から見て左側の方に歩いていったと話します。左側から屋敷の外に出て山路を走ると途中で鞘を発見します。山を登ると「龍王の滝」という大きな滝壺が有り、そこに刀を捨てようとしているのではと。八千代を呼んでもこの雷雨で相手に届くかわからないし、夢遊病者。
一瞬ふらふら歩く八千代の姿がみえたので急いで後を追いかけると、蜂屋の姿がみえました。直後追いかけてきた金田一も合流。蜂屋も八千代も見つかりませんが女性の悲鳴が数回聞こえました。三人で分かれて竜王の滝の周囲を探しますが、二人を呼ぶ金田一の声が聞こえたので急いで向かうと、彼が佇んでいます。金田一は無言で前方に懐中電燈を向けます。直記と「私」も同様に懐中電燈を向けると、そこには首のない女性の死体がありました。着ていた衣類は八千代の寝巻きで、先程一瞬みえた彼女の格好のためーーーーーーこの首なし死体は八千代でした。

そもそも首を切り落とすのは、昔の武士の誉れの証にするためだったり、被害者の身元をわからなくしたり入れ替えトリックに使用することだと「私」は考えます。そして今回の女性の死体も首がない。……だから八千代かどうか判別がつかない。「私」は考えて恐ろしい説にたどり着きます。殺された女性は背格好が八千代によく似た女性で八千代は彼女を己の身代わりに仕立てて殺した。つまり八千代が殺したのではないかと。八千代は共犯者で、その主犯となるのは蜂屋だろうと。

警察がくると渦中の直記は尋問を受けていました。犯人ではなく被害者とおぼしき八千代を匿っていたのは事実なのですから。「私」も同じように尋問を受けるのかと思っていましたが、金田一が「あなたのような助手がほしいのです」といって警察官に言い含めていましたので特に尋問は有りません。疑惑の眼を向ける「私」に対し、金田一は自分は私立探偵で鉄之進の依頼でこの事件を解決してほしいので東京からやってきたといいます。お手並み拝見と「私」は金田一の助手になることを了承します。二人で竜王の滝付近にいけば野次馬と警察でごった返し。てっきり金田一も追い返されると思いきや、警察側が金田一に慇懃無礼で頭を下げているのが警部補の対応からも伺えます。
なにか新情報があったかと聞くと、殺害現場がわかったと渓流をこえ洞穴に案内されます。洞穴には乾いた血が残っていて、血みどろの村正がささっていたため、殺害は外でも首切り作業はここだろうといいます。胴体を引きずり渓流に捨てたので本来ならこの周囲に浮かぶはずでしたが、昨日は大雨で激流だったため滝まで流されてしまった模様。
小さな笊のリュック、蜂屋が着ていた衣装。そのリュックを「私」は佝僂の瘤と叫び、誰かが蜂屋に変装していたのかと結論付けます。そこでコンパクトを拾いますが、持ち主は不明です。八千代は着の身着のまま出ているはずだから持っているはずがないといったところで「私」は言葉を切りました。八千代が本当に夢遊病なら?

八千代とお静

八千代を襲った蜂屋は蜂屋本人ではないのなら誰が彼に変装したのか。直記と「私」は互いにアリバイがあるうえ金田一も一緒にいましたので外れます。母屋にいたのは鉄之進・お柳・四万太・お藤の四人。彼らの誰かが先回りして蜂屋の格好をして待っていたと考えますが、そもそも突発的な八千代の夢遊病を予測できるはずもないと、「私」はぶつぶつと思考の海に体を埋めていきます。金田一に声をかけられるまで彼はひとりこの事件について色々つぶやいていた模様。金田一と「私」は隣村の足長村の「海勝院」に向かっていました。そこにいる妙照という尼に話を聞くためです。
一体誰が蜂屋に変装したんだと堂々巡りする「私」に対し、金田一は一人だけ可能な人がいると話すと、それは古神八千代といいます。八千代の一人二役。盲点を突かれ「私」は有りえないといいますが、金田一は何故彼女は有りえないというのか。外部の自分が聞いただけでも古神八千代という女性は無軌道でこのような行動をとってもおかしくないといいます。

海勝院のご院主・妙照に自己紹介した「私」と金田一。金田一はここに気に触れたお静という女性がいるのではと話します。妙照の話では東京で滞在した際に直記から過分の寄進を受け、同時にお静を預かってほしいとお願いされたとのこと。狂っているが物静かな女性だから迷惑をかけないと押し切られ、妙照はお静を引き取ることを了承したといいます。ただ事件からお静の姿がみえず、佝僂らしき男とお静らしき女性が竜王の滝に向かっているのを見かけた住民がいたという話です。金田一が滝で拾ったコンパクトを見せると、妙照は「それはお静さんのコンパクト」と驚きました。

海勝院から戻った「私」を待っていたのは、ようやく警察から開放された直記。離れでどこに行っていたのかと「私」の足取りを訪ねます。直記の姿を見て、もしかしたら彼は奸智に長けた大悪党なのではと「私」は思います。金田一と出かけていたと話すと、「私」と違い金田一を信用していない直記は、あんな男に何ができると吐き捨てます。「私」は金田一を擁護し私立探偵で警察からも敬意を払われているよといい、佝僂の瘤とコンパクトのことを話します(ただそれ以上のことは言ってはいけないと言われています)。ただ「私」と違って金田一の活躍を目の当たりにしていない直記は馬鹿言うなといいウイスキー片手に飲もうと「私」を誘います。そこに駆け込んできた……罪を告白しに涙をこぼしながらやってきたのは女中のお藤です。

女中・お藤の証言

駆け込んできたお藤は頭を下げながら、自分は嘘をついていたと告白します。急に告白する気になったのではなく、金田一によって証言のウソを見抜かれ自白するように仕向けられた。あの人はとても恐ろしい人です、とお藤は話します。恐怖とか暴力ではなくその魅力と笑顔によっていつのまにかボロを出してしまい、そこから芋づる式に引きずり出される。

お藤が東京の古神家で事件の夜十二時頃に蜂屋に水差しを届けに来た、これが彼女がついたウソです。お藤は蜂屋に夜十二時ぐらいに会いに来いと言われて忍んで向った所を「私」たちに声をかけられて嘘をつきました。つまりお藤は事件当日、蜂屋の部屋に入っていないのです。翌朝、部屋にあった水差し等は、お藤が自分の嘘を強固にするべく行った工作です。部屋から出てきたと思ったお藤は逆で入る瞬間であり、一瞬だったので部屋の中に蜂屋がいたかどうかわかりませんと言います。そして警察の取り調べにも蜂屋の部屋に水差しを届けて夜よく眠っていたと話したのです。
お藤は蜂屋と愛人関係にあり、何度もベッドをともにしていました。蜂屋の背中の瘤をお藤はしっかりと見て触るほどの仲で、最初の洋館で見つかった佝僂の首無し屍体は守衛ではなく蜂屋だとはっきり証言します。蜂屋は佝僂だと。

古神八千代の正体

お藤の話によって事件がひっくり返ります。犯人だと思われた蜂屋はもう最初の事件ですでに死んでいて、今まで出現した蜂屋はすべて犯人が蜂屋に容疑を転嫁するべく行った工作なのではと。
翌日、県警の磯川警部が合流します。古狸と呼ばれた警部で、これで金田一もお役御免だと思った「私」と直記の期待を裏切るように、磯川警部の横に金田一がいました。そして磯川警部の金田一に接する態度は憧憬や尊敬に近いもの。金田一は「私」と直記を含めた今回の事件の関係者を母屋に集めます。「私」・直記・鉄之進・お柳・四万太・お藤・お喜多の七人。お喜多は守衛を殺した犯人は蜂屋ではなく鉄之進・お柳・直記の三人だとずっといっています。

金田一はお喜多の言葉の中で「守衛より先に蜂屋が死んでいた」ことを指摘し、そもそも古神家で食事を摂る九時前に彼は殺されていたというのです。その根拠はお藤の証言です。十二時前に蜂屋の部屋に行ったお藤ですが、そこに蜂屋がいたかどうかの確証がなく、彼女の証言で十二時以降に殺されていると思い込んできた蜂屋の死亡時刻が無意味になります。
胃の中の食事の溶け具合から死後二時間は経過していて、東京の警察でも反抗推定時刻を夜十二時ぐらいだと言っていると直記は反論します。金田一は夜十時に八千代が持っていったものと同じ食事を、元々もっと早い時刻に蜂屋が食べていて二時間後に殺されたのなら、と。時間の繰り上げで夜五時で七時に、六時なら八時に。おそらく九時以前だと告げて。そのため夜十時に八屋の部屋に持っていった八千代の行動が無意味になります。

もっと早い時間なら八千代のスリッパの血の痕や彼女が歩いていった理由はどうなると聞かれた金田一は、八千代のスリッパの血の跡は、蜂屋を殺した直後の血溜まりのなかで犯人が八千代のスリッパを履いて跡を残した。そしてそのスリッパを八千代が入って夢遊病のように歩いて狂乱の事件に見せたといいます。古神八千代は夢遊病ではなくふらふらと歩いて夢遊病者のように見せた。その理由は犯行時刻を欺くためであり、彼女はこの連続殺人事件の共犯者でした。
この真実を金田一から聞いた直記は目が飛び出るくらいの驚きようですが、更にその事実に「私」が感づいていたと言われたときは言葉を失い他の同席者といっしょに「私」を見ます。

あの屍体は八千代ではなく別の女性の屍体で、八千代が身代わりにした。珍しく口を挟んだのはお柳で、あの屍体は八千代ではないのか、寝間着を着ていたではないかといいますが、金田一は「女性を殺してその屍体に自分を着ていた寝間着を着せた」と話します。何故そんなことをしたのか、それは八千代が蜂屋・守衛殺しの犯人の共犯者だから。警察に捕まって処罰される未来しか無いため、八千代は成り代わって別人として生きるほかなかった。
なら八千代の代わりにされたその哀れな犠牲者は誰か、お柳の質問に金田一はその女性はお静という女性というと、直記の体が雷に撃たれたように震えます。お柳は彼の変化に気づかず、彼女について聞くと金田一はある程度の身の丈を話し、直記に委ねます。直記が何も答えなかったので、代わりに金田一が答えます。東京の洋館に監禁されたのち直記によって海勝院に預けられた気が触れた女性。それにブチ切れたのは鉄之進です。悪鬼のごとく問いただすも、直記は何も知らない、何も知らないと白を切ります。お喜多はやはり守衛を殺したのは直記と八千代だと割り込み、てんやわんやと盛り上がりますが、金田一がストップを掛けます。そして話は再び蜂屋殺しのアリバイ崩しに戻ります。

蜂屋殺しのトリック

どうして金田一が「夜九時以前」と結論付けたのか、まず夜九時に食事を取った時に蜂屋以外が姿を見せていたことです。蜂屋は体調が悪く部屋にいるという話でしたが誰も彼の姿を見ていません。そして蜂屋はもうこの時この世にいなかった。そして夜十時頃に八千代が食事を持って蜂屋の所に向かったのは二つの理由がありました。一つは蜂屋がまだ生きているように思わせたかったこと、もう一つは蜂屋がそのときに食事を取ったこと。このときに食事をとったと思わせる事で胃の中の食事の溶け具合から犯人たちが犯行時刻を夜の十二時以降にしたかったのです。またそれに加えて八千代が夜血のついたスリッパで歩いたことでできました。だからあのときの八千代の行動はすべて一人芝居。蜂屋に襲われたというのもウソで、持っていった食事も食べてしまいました。したがって、もうひとりの犯人は夜十二時以降に絶対のアリバイがありますが、実際の犯行時刻にはアリバイがない人物となります。

金田一は直記と「私」が村正を持って二重の金庫に入れたことが、蜂屋殺しの正確な時間がわかったといいます。あの二重金庫は絶対に破れないし二人がそれぞれ持っている。金田一は今回の事件を最初からもう一度洗い直しているうちに金庫にある凶器の村正にたどり着きます。東京の警察でもこの村正にはずいぶん悩まされているらしく、犯行時刻には村正は金庫にあった。二人が嘘をついているのではなく二人の言葉は真実で、絶対に取り出せない状態なら、発想を変えて犯行時刻を繰り上げてみたらどうだろうか。金庫にいれた時点で最初から村正は使われていたとしたら? そうするほうが取り出すよりずっと楽です。
犯人によって直記の行動は予想外でした。せっかく深夜十二時以降の犯行に見せるように様々なトリックをうっていたのに、凶器の村正が取り出せない状態になってしまったのだから。

そして九時から村正がしまわれる十時前後の間で母屋にいた鉄之進・お柳・四万太は完全なアリバイが有りました。犯行時刻は九時以前になりますが、そうなってくると九時以降に蜂屋が生きている証言や振る舞いをしておかしいのは八千代とお藤の二人。金田一はお藤を問い詰めたところ、彼女の本当の証言を聞き出せたのです。八千代の行動に不可解な点が多く、金田一は八千代を今回の事件の共犯者と結論付けました。

もう一人の共犯者

では主犯は? とお柳がヒステリー気味に聞いたところ、一人の男が立ち上がります。「直記!」と名を呼ぶその男は父親の鉄之進で、彼の問答無用の鉄拳が直記の頭に振り下ろされます。直記も抵抗し鉄之進のほうに顔を向けますが、彼の鉄拳によって何度も殴られます。直記が反射的に鉄之進の胸を突くと、そのまま鉄之進は血をこぼして仰向けに倒れ、そのまま帰らぬ人となりました。「私」はその時の直記に殺意などなかったと言い切りますし、直記の一突きが致命傷ではないのは皆わかっていました。そして古神家の支配者たる鉄之進が死んだことで、金田一による事件の説明は一旦中断し、古神家と仙石家はごった返しな状態です。そんななかでも「私」はこの『記録』を書いていました。

金田一は憚って主犯の名前を言いませんでしたが、あの場の空気からしてみな主犯を推察していました。あの場に警察もいたのにどうせ犯人を逮捕しなかったのだろうかと「私」は思います。鉄之進の急死があったといえ、殺人鬼を野放しにしてよいものかと。その殺人鬼は「私」をジロリと睨みつけていて、背筋が凍る恐ろしさと眼光の中の殺意を忘れられませんでした。今覚えば彼が今回の事件ずっと「私」を引きつけていたのは「私」を殺してその身代わりにするのではないかと。お静を殺して八千代が身代わりにしたように。思い出してみれば彼と「私」は背格好もだいたい同じぐらいで、首を切って服を入れ替えればわからない。「私」は今にも犯人の身代わりにされて首無し屍体になるのではないかと怯えます。

ゆきんこ

ここから事件は急展開を迎えます。金田一と犯人のやり取りがなかなか珍しい内容なんだよなぁ

「夜歩く」のネタバレ

犯人と金田一の対決はまるまる一章使っての事件です。この作品のトリック、長編だと横溝先生が使ったのってほとんどないような。一番近いのは八つ墓村だけど、あれはぜんぜん違う展開だし。ただ犯人からみた金田一耕助が本当に恐ろしい点は孫にもしっかり受け継がれていますね。

「夜歩く」の犯人

蜂屋小市・古神守衛・古神八千代を殺したのは「私」こと屋代寅太、そして古神八千代です。古神八千代は共犯者ですが、屋代にとってはじゃまになるので殺害しました(お静の代わりにする目的もあった)語り手の「私」が犯人という叙述トリックで、「信用できない語り手」です。「私」は一番殺したい男、直記にすべての真実を話し終えて彼を殺す直前に金田一と磯川警部たちに逮捕されます。元々屋代はこの事件の被害者になるためウソを織り交ぜた小説を仕立てていました。後で警察が見つけた時に犯人=仙石直記にするために。

探偵が二人同時に並ぶのはおかしいので、金田一耕助が探偵なら屋代が犯人になるわけです。

八千代の共犯者からくる行動は事件以前から始まっていて夢遊病はもちろん写真&脅迫状&蜂屋への愛もすべてウソ。首のない佝僂の男の写真は、守衛に蜂屋の格好をさせて写真を取りました。蜂屋を狙撃した理由は守衛の脚に銃の傷があったから。同じ傷を作ることで首のない死体の外見を全く同じにして死体を撹乱するためです。しかしほぼ同じ場所に狙撃できる八千代はヒットマンの才能があったと思う。

金田一が屋代を犯人だと結論づけた理由は二つあり、一つは直記が金庫に村正をしまったこと。これで犯行時刻のアリバイトリックが全部無駄になってしまいました。もう一つは洋館に「Yachiyo」と書かれた文字。蜂屋が待っている間に彫ったにしては傷跡が古すぎます。虫眼鏡等でもっと調べると下から「Yashiro」がでてきたため、屋代に関係がある人物がいたことになります。屋代の過去を探っていくとお静に当たり、金田一は屋代がこの事件に相当深く関わっていると考えたのです。

「夜歩く」の犯人の動機

自分にとって大事な恋人「お静」を直記に託して出兵したのに引き上げてきたら彼女は監禁されて直記に散々に凌辱された末に自責の念で精神が壊れて海勝寺に預けられていたことを知って直記への復讐を決意したため。ただ殺害するだけで許さない、徹底的に恐怖を与えてうんと怯えさせてから殺してやろう。そして屋代から様々な真実を聞いた直記はショックのあまり発狂しほぼ生きる屍状態になってしまいました。

直記が村正を金庫に保管し屋代を部屋に招いて寝かせた本当の理由は、直記も父親同様夢遊病を患っており、事件日は衝撃的な事も多かったため自分が村正をもって守衛か蜂屋を殺しにいくのではと思い、先に手を打ったからです。そして岡山に来てからついに爆発し夢遊病を発現して竜王の滝に向かったところ、追いかけてきた屋代に拘束されて樹にくくりつけられ、平手打ちされて正気に戻ります。だが屋代は直記を解放せず再度平手打ちして唾を吐き捨てると、直記に向かってこの事件の真実を語り始めました。

八千代は事件発生前から屋代を知っていて関係がありました。屋代は八千代を愛しておらず、また八千代のような女性は袖にされ続けるとかえって本気になってしまうもの。あらゆる狂態、媚態を尽くして屋代の気を惹くさまは滑稽だったと屋代は嘲笑います。直記の八千代への愛は本物で、愛した女が自分内心馬鹿にしていた男に玩具にされ続けた事を知って唸り悲鳴を上げます。彼女は直記も嫌いで屋代が殺すときいた時有頂天になったが、それ以上に嫌っていて一番最初に殺してほしいと屋代に願った相手こそ古神守衛。守衛の姿はおろか声すらも怖気が走るほど嫌悪感で満たされて気持ち悪くてたまらないのです。

古神守衛はどこにいったのか

守衛は八千代にそそのかされて荷物を持って古神家の屋敷をでます。八千代が屋代の下宿先で守衛に身を任せると誘ったので蒲団を敷いて彼女をまちます。今で言うイン◯の守衛は八千代をきちんと満足させられるように予め精力剤を飲みますが、その精力剤が毒にすり替えられていました。屋代が一度下宿先に帰ったタイミングで、守衛の首を切り落として古神家に持ち帰ります。胴体は近くの防空壕に埋めました。

何故首のない死体にしたのか

何故被害者の首を切り落としたのか、それは最終的に犯人である屋代が直記を殺してその首を落として自分が直記に殺されたと思わせる、犯人と被害者の入れ替えトリックをするためです。そして屋代は八千代を殺して首を切り、その女性をお静にみせて犯人を直記と八千代の二人に仕向け、自分はお静を連れてどこか静かな場所で暮らすつもりでした。

ただ直記を殺害して首なし死体にして屋代が殺されたように見せかけても、唐突すぎて怪しまれる。その伏線、前段階としての準備殺人に選ばれたのが守衛と蜂屋でした。蜂屋・守衛・八千代三人の首を切り落としたのは屋代です。彼は「戦争でたくさんの首を切り落としたから」と言っていました。

夜歩くのまとめ

個人的に横溝正史先生の金田一耕助の初期作品の中でかなり好きな長編作品です。初見のインパクトに勝る者なし。実は緑のラインは真実を、オレンジのラインは偽のことを記しています。語り手が別のため、信用できないと言われてる金田一があまりにも新鮮すぎましたね。いつもはあの事件を解決した、と書かれているから時系列はあの辺りかなと思うんですが、今回はそれがないのでどの辺りなんだろう。

今回も画像はこちらよりお借りしました

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