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【ネタバレあり】横溝正史・長編「支那扇の女」を紹介

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没後40年&生誕120年記念で続々復刊されている横溝正史先生の作品。今作は2022年1月に「びっくり箱殺人事件」と同時発売した作品です。表題作とは別に「女の決闘」が収録されていて、こちらの「女の決闘」はNHKの短編ドラマで実写化されています。

目次

「支那扇の女」のあらすじ

鮮血が飛び散る廊下で、血だまりに突っ伏す寝巻姿の女。離れの部屋には、額をざくろのように割られ、凄まじい形相をした老婆が死んでいた。現場に駆けつけた等々力警部と名探偵・金田一耕助は聞き込みを始める。凶器は思いもよらぬ場所に捨てられていた。さらに70年ほど前、世間を恐怖のどん底に陥れた毒殺未遂事件と複雑に絡み合う。
謎の因縁話に秘められた斬新なトリックを金田一は見破られるか。表題作に加え「女の決闘」を収録。

角川文庫「支那扇の女」より

多門修が登場する数少ない作品ですが、登場するのも結構終盤でした。もっと登場してくれ!あと彼が登場するの、「扉の影の女」「雌蛭」かな

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵
八木克子70年前の毒殺未遂の事件の犯人とされる女。獄中死
八木冬彦克子の旦那。事件の二年後に夭折
八木春彦冬彦夫婦に子供がいないので八木家を継いだ冬彦の弟
八木夏彦春彦の孫で八木家当主。
木村巡査&牛乳屋自殺しようとした女(=朝井美奈子)を助けた警官と牛乳屋。牛乳屋は説明役になっている
朝井美奈子何も知らないといいながら死んでしまいたいという女性。袖口に血の跡がついている。八木克子は大叔母
朝井照三小説家で美奈子の旦那。八木春彦の孫。サディスト
朝井小夜子小児麻痺で足が不自由。先妻康子と照三の子供
武田君子寝巻き姿で死んでいた女中。一人目の犠牲者。
瀬戸口最初、朝井家に一緒に入った歯科医。四人目の犠牲者。成城地域を騒がせていた怪盗
藤本恒子頭がザクロのように弾けていて死んでいた。朝井照三の先妻康子の母親。二人目の犠牲者。
辺見東作挿絵画家。朝井照三の小説の挿絵を担当。三番目の犠牲者。偽画家の前科あり

横溝先生お得意の◯◯年前の事件の因縁が現代の事件に絡む!というシチュエーションです。今作は70年前に「稀代の毒婦」と呼ばれた「八木克子」が興した毒殺事件が彼女の子孫に絡んできます。八木家の墓の発掘作業の際にでてきた「支那扇の女」が朝井美奈子によく似ていたため、美奈子は自分を彼女の生まれ変わりではないかと思うようになり、精神的に不安定になってしまった。しかしこのとき美奈子に見せた「支那扇の女」の絵画は朝井照三が辺見東作に依頼して作られた偽画だった。

この事件は女王蜂の数年後の事件にあたり、作中で月琴島の話がでてきています。こういう別の事件の話がちょっと出てくるとファンとしては嬉しいですね

「先生のお噂はたびたびうかかがったことがありますよ。あれは昭和二十六年の事件でしたわね」
「昭和二十六年の事件とおっしゃいますと……?」
「ほら、加納法律事務所の加納辰五郎先生。ご存知でしょう」
「ああ、存じ上げております。月琴島の事件ですね」

支那扇の女 P95

終盤の「急転直下」という章で多門修が登場しますが、意外なことに金田一先生が和装じゃないのも珍しい。サラリーマンみたいな格好をしていて「似合わない」と評されています。

支那扇の女のネタバレ

ここからは「支那扇の女」の犯人のネタバレや動機などを含みます

※「支那扇の女」の犯人

犯人は朝井美奈子。男装し警察と捕り物を続けますが、最終的に片手に用意していた青酸カリを飲んで自殺します。ただし彼女を殺人に追い詰めたのはサディストの朝井照三です。

彼女が犯人だとわかったきっかけは、成城地域を荒らす怪盗の正体だった瀬戸口歯科医が深夜朝井家に忍び込み、全身に返り血を浴びた美奈子を見たことを知った事から。

※「支那扇の女」の動機

自分をギリギリにまで追い詰めるサディスト旦那「朝井照三」への復讐。

照三は美奈子を追い詰めるため。発掘された「支那扇の女」を美奈子にモデルにして辺見に作らせた偽画を美奈子を見せている。この偽画で美奈子は強い宿業感を抱き、そして旦那に「悪い種子」という映画まで見させられている。ただその「支那扇の女」をみてできすぎているのでは、と思うようになり調べていって真実に辿り着く。

ただ美奈子の家の人間も話しているが、美奈子は八木克子の事件について半分までしか本当に知らなかったため、罪悪感と絶望感が存在していた。そこに朝井照三がつけ込んだ形になる。

※「支那扇の女」の事件の真相

八木克子は犯人ではなく実は生贄(スケープゴート)であり犠牲者。このことは八木家・本多家の人間は知っているが決して口にしない。

冬彦の妹の田鶴子がこの事件の犯人。田鶴子は克子の昔の愛人の佐竹に恋をするも受けいられなかった。その腹いせに克子を陥れようと企み、致死量に満たない毒を母親と自分に服用して毒殺の罪をなすりつけ克子を追い出そうとした。このことを当時の八木家の人間が知っているかどうかは不明。そして田鶴子は佐竹も殺している。
持参金があるとはいえ豪農の娘を嫁にすることに不満を持っている八木家の人間もいたらしい。

なお事件後、冬彦は悶死したがその理由の一つに誰も嫁に来なかったから。田鶴子も嫁の貰い手がなく、ほとぼりが冷める頃に男と駆け落ちして八木家から出奔するも金の無心をしにきたとか。

「女の決闘」のあらすじ

舞台は高級住宅街の緑が丘。金田一先生が緑が丘に引っ越ししてきてからのすぐの事件になります。ただこの緑が丘でおきた事件を二度目も解決している、ということなので一体どの辺りだろうと思ってしまいます。おそらく毒の矢かな。

女の決闘の登場人物

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵
ロビンソン夫妻英語教師。今後帰国するのでお別れパーティがひらかれる。奥さんは河崎泰子が藤本哲也のゴーストライターだというのを知っていた
河崎泰子緑が丘の住人。パーティーの招待状をもらっていなかった。藤本哲也の前妻。
木戸郁子緑が丘の住人で理学博士の未亡人
藤本哲也緑が丘の住人で小説家。今回の被害者。
藤本多美子緑が丘の住人。哲也の今の妻。殺人未遂に遭う。
井出清一多美子の友人で作曲家
ジャック安永海外で俳優経験のあるコック
椙本三郎元海軍少佐

今回の犯人の動機など含めた本当の事実は手紙形式で、ロビンソン夫妻から金田一宛に手紙が送られ、それによって暴露される形になります。(金田一はロビンソン夫妻に手紙を送っていて、その返事)

※「女の決闘」の犯人

犯人は藤本多美子(上島多美子)です。

彼女は最初に微量のストリキニーネを服用してアイスクリームを食べ、生還する。こうして誰かが自分を狙っていると周囲に錯覚することができた。藤本哲也を殺すときは彼が服用している薬にストリキニーネを包んで入れておくだけ。

※「女の決闘」の犯人の動機

藤本哲也と結婚して、彼の全てがまやかしだと気づいたことへの幻滅と絶望。
実は藤本哲也の小説家としての才能は皆無に等しく、当時の奥さんの泰子がゴーストライターをしていました。彼の著作物を自分のライバルが代筆していた事を知った多美子の誇りは徹底的に屈辱に踏みにじられ、旦那を殺さなければ自分の名誉が回復しないと考えた。

この動機、吸血蛾と似てますね。

支那扇の女のまとめ

短いながらも様々な人々の策謀や二転三転する事件など、読み応え抜群の一冊。こちらもいつか実写化して映像で見たいなあと思っています。(タイトルがちょっと問題なのでは、と思ってしまった)
あとやっぱり女の決闘、短編物はわかりやすくていいですね!

扉の影の女はこちら

緑が丘で起きた事件はこちら

吸血蛾はこちら

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画像はこちらよりお借りしました

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